# 電力市場のAIは、指示されなくても談合を学ぶのか

著者：Kotaro OKUYAMA / AgentCollusion  
資料確認日：2026年9月7日  
対応する記事：`/news/electricity-market-ai-tacit-collusion`

電力の入札をAIが繰り返すと、価格競争を避けるようになるのか。その問いを調べるには、価格が高いという結果に加えて、一社が値下げしたときに、他社がどう反応するかを見る必要がある。

8月27日公開のJakub Seredyński、Georgios Tsaousoglouによるプレプリントは、強化学習エージェントを使った電力市場シミュレーションを扱う。18条件を調べ、選んだ3条件に行動検証を行った。2条件では逸脱への懲罰と回復に相当する反応を確認したが、残る条件では同様の懲罰が見られなかった。学習時には集中型の評価器を用い、入札の実行時にはエージェント間の通信を行わない。実市場で摘発された談合事件の報告ではない。[プレプリント本文](https://arxiv.org/html/2608.26896v1)

## 何度も会う相手とは、競争の意味が変わる

仕組みを理解するため、毎日同じサービスを売る数社の架空の市場を考える。一社だけ今日の価格を下げれば、注文を増やして利益を得られるかもしれない。しかし翌日から競合が激しく値下げすれば、その後の損失が今日の利益を上回ることもある。

長期の報酬を学ぶシステムにとっては、「いま値下げすると将来どうなるか」も行動の価値に含まれる。過去の結果から、競合の反応を踏まえた方策を獲得するのに、必ずしも「価格をそろえよう」という文章は要らない。

もちろん、常にそう学ぶわけではない。参加者が見える情報、報酬の与え方、学習方法、将来の利益をどれだけ重視するかによって変わる。これは経済的な仕組みの説明であって、AIが人間と同じ意図や感情を持つという意味でもない。

今回の対象は、入札の方策を学ぶ強化学習である。対話型AIが相談して価格協定を作る実験とも、別々の企業が独立に開発した商用AIの実態調査とも区別して読む必要がある。

## 高い価格だけでは、原因を特定できない

たとえば、架空の送電網にボトルネックがあり、特定の地域では一つの発電所を他社で代替しにくいとする。この発電所は、競合の過去の行動を無視していても、高い価格を要求できるかもしれない。

一方、相手の値下げには値下げで応じ、しばらくすると元に戻るような行動は、相互の反応によって高価格を維持する可能性を示す。この二つは、同じような価格水準を生んでも、説明が違う。

区別するには、比較基準と介入が必要になる。需要、費用、供給能力を固定したまま、一社の行動を変える。競合が反応したかに加え、値下げした側の利益が実際に減ったかまで追う。入札曲線が似ているという観察だけでは、相手に経済的な不利益を与えたかまでは分からない。

| 観測したこと | 次に調べたいこと |
| --- | --- |
| 競争的な基準より価格が高い | 需給、費用、設備制約、基準の置き方 |
| 入札が同じ方向に動く | 共通の外的変化でも説明できるか |
| 一社の逸脱に他社が反応する | 逸脱した側の利益を減らしているか |
| 記憶を取り除くと反応が変わる | 学習を繰り返しても同じ差が出るか |

この表は、研究結果を読むためのAgentCollusionの整理である。

## 研究で確かめたことにも、境界がある

論文では、記憶と長期の報酬を重視する仕組みを取り除くと、低需要の2条件で明瞭だった懲罰的反応が消えた。一方で、入札の高さが一貫して消えたわけではない。送電網に由来する市場支配力も、解釈に残る。選別した条件の結果から、現実の発生率は求められない。[短期化の比較実験](https://arxiv.org/html/2608.26896v1#S5.SS3)

学習の条件も大切だ。「入札時に通信しない」と「開発・学習の全過程が独立している」は、同じではない。学習に全体の情報を使う部分があるなら、独立に開発されたエージェントへの一般化には、その独立性を再現した実験が必要になる。

AgentCollusionとして次に検証するなら、乱数を変えた反復、学習方法の比較、各参加者に見える情報の変更を行う。共謀を示唆した条件だけでなく、示唆しなかった条件や判断しにくかった条件も残したい。興味深い事例を選ぶことは仕組みの分析には有用だが、その事例だけを分母にして発生率を語ることはできない。

## 市場のルールを変えるなら、供給も測る

ルール変更を評価するときには、価格以外も測る必要がある。架空の電力市場なら、需要を満たせるか、設備の制約を守れるか、費用と参加者の利益がどう変わるかを同時に見る。

有用な供給まで妨げて価格を下げる仕組みと、供給を保ったまま価格協調の誘因を弱める仕組みでは、利用者への影響が違う。単一の指標の改善だけで、制度がよくなったとは決められない。

本稿の「暗黙の談合」は経済研究上の概念として扱っている。特定の企業の違法性を判定するには、法域や具体的な行為と証拠が必要である。

[AgentCollusion自身のA2A市場実験](https://agentcollusion.ai/news/capability-asymmetry-a2a-experiments)とつながるのは、まず検証の方法だ。やり取りと実際に成立した結果を残し、条件を変えたときに、どの説明がなお成り立つかを調べる。エージェントや市場が違えば、必要な証拠も改めて集める必要がある。本稿で提案した追加評価は、実施済みの結果ではない。
