# AIに財布を任せる前に——自動決済と委任の設計

著者：Kotaro OKUYAMA / AgentCollusion  
調査基準日：2026年9月6日

AIへの「この予算でイベントを準備して」という依頼は、どこまでの支払いを認めたことになるのだろうか。会場探し、食事の手配、資料制作を別々のエージェントに任せた場合、一つひとつの購入が妥当でも、合計で予算を超えることがある。身内の業者ばかりが選ばれていても、金額だけを見れば問題に気づかないかもしれない。

自動決済の中心にあるのは、依頼者の目的を、複数のエージェントやサービスを通じても有効な支出権限へ変換する問題だ。AgentCollusionは、その委任と利害関係が組み合わさったときの振る舞いを調べる。

## 残高、署名、委任は違う情報を持つ

残高があれば払える。署名があれば特定の資金移転を承認できる。しかし、それだけでは「何のために買ってよいか」までは決まらない。委任には、依頼者、対象となる商品やサービス、許可する相手、期限、合計予算、再委任の条件が必要になる。

これらの条件は別々に破られ得る。予算内でも、独立した検収者を使う条件に反する購入がある。昨日は有効だった権限が、今日の支払い時点では取り消されている場合もある。経費を要求する権限があることと、自分で承認する権限があることも異なる。

## AP2が扱おうとする委任の証拠

Agent Payments Protocol（AP2）は、署名された委任を通じて、依頼内容、購入内容、支払いの証拠を結びつける設計を示している。参照した仕様は、初期のカード等を中心とする人間同席の取引と、人間不在の取引への拡張をロードマップ上で区別している。[AP2仕様](https://ap2-protocol.net/en/specification)

設計として記述された取引が、すべての決済事業者で提供されているとは限らない。実際に使う場合には、対応するフローを確認する必要がある。

また、自動決済全般が暗号資産を必要とするわけではない。既存のカード等にも署名された指示を結びつけられる。ブロックチェーンによる決済は選択肢の一つであり、[x402](https://agentcollusion.ai/news/x402-agent-payments-collusion)はサービスへの要求と支払いを接続する別の仕組みを担う。いずれを使っても、その支払いを依頼者の目的と権限につなぐ仕事は残る。

## 資金が動く場所で、合計予算を守る

ここからは実装に向けた設計提案である。支出の制約は、生成された文章とは独立して実行できるウォレットやサービスに置く。モデルへの「予算を守る」という指示は有用だが、それだけでは会計上の制約を実装したことにはならない。

|制御|適用する範囲|対処したい問題|
|---|---|---|
|合計予算|依頼者と仕事、すべての委任先|個別には妥当な支払いで総額を超える|
|取引先の条件|サービスと運用主体|許可されていない関連会社へ支出する|
|期限と取り消し|実行時点の権限|古い委任が利用され続ける|
|購入の識別|業務上の一つの購入|通信の再試行で二重請求になる|
|独立した検収|明示した納品条件|売り手の自己申告だけで支払う|

同時に動く複数のエージェントでは、未確定の支出予約も重要になる。決済前の同じ残高を別々のエージェントが見て、それぞれ「払える」と判断すると、合計が上限を超える可能性がある。完了した送金と、すでに約束した支出を合わせて管理し、失敗や期限切れの予約をどう解放するかを決める必要がある。

通信がタイムアウトした場合にも、「支払いは起きなかった」とは限らない。先の試行を照合してから再試行する仕組みが要る。送金は成立したが納品されなかった場合の調査や返金も、運用として設計する。

## 正しい承認にも利益相反は入り得る

冒頭のイベント準備を仮想例として考える。手配AIが関連業者を繰り返し推薦し、検収AIが自分の成約KPIを上げるために承認した場合、すべて予算内でも依頼者の条件に反する結果が生じ得る。

関連業者であること自体が不適切とは限らない。関係が開示・承認されていることも、その業者が最適であることもある。区別するためには、候補、選定理由、検収者が見た情報、所有関係を調べる必要がある。怪しい関係は調査の出発点であり、それだけで共謀と断定する材料にはならない。

Draftの[ERC-8183](https://eips.ethereum.org/EIPS/eip-8183)は、資金を預託し、成果物を提出し、評価者の判断で支払いへ進む設計を示す。この構成では、評価者の選び方が経済的に重要になる。正しく動くコントラクトでも、権限を持つ評価者が売り手と結託していれば、その判断に従って送金し得る。

## 依頼から成果までを一つの取引として追う

有用なレビュー記録は、委任、仕事、取引先、承認、支払いの試行、決済、納品結果を結びつける。各サービスが別々の記録を持っていても、相互の参照が再試行や委任で失われなければ、何が起きたかを再構成しやすい。閲覧権限を超えた情報を集めないことも必要だ。

AgentCollusionの研究としては、同じ仕事と予算の下で、誰が提案し、承認し、利益を得るかを変えて比較できる。累積支出の違反、虚偽の承認、仕事の成功、不必要な介入の負担を測る。承認段階を増やせば必ずよくなると仮定せず、制御の効果を実験する。

本稿は新たな決済実験の結果ではない。現在の[Trace Lab](https://agentcollusion.ai/lab)にもウォレットや委任の執行機能はなく、提出されたトレースに4つの決定的なルールを適用する。研究の目標は、予算を使える委任が何段階続いても、依頼者の権限と目的を追えるようにすることだ。
